当日のパンフレットにも書いた通り、とにかく「めちゃくちゃなコンサート」をやってやろうと思い、その目論見は十分に達成できたと思う。全国からこの日のためだけに集まった50名のフルオーケストラ。クラシックからジャズから、第一線で活躍する一流のみを集めたコンサート。
2020年に設立されたQAZZレーベルも、2024年9月現在、16枚のアルバムをリリースしており、この後もどんどん量産されるわけだが、そのメモリアルとしても相応しい演奏会、そしてこの度のレコードになったかと思う。
必ずしも十分なリハーサルを重ねたわけでなく、いろいろと目につく(耳につく)部分もあると思うが、その日の「勢い」が細かい粗をかき消し、結果、実に聴き応えのあるアルバムになったと思う。
当日はオープニングとアンコールを合わせて計14曲、それも大曲ばかりで会場の時間オーバー必須の内容になったが、その中からあえて6曲に絞り込み、一枚に収めた。
まずオープニングアクトから武満徹の「翼」は一般によく知られる曲ではないが、現代音楽の作曲家とは思えぬような、実にメロディアスで美しい小品。合唱曲としては割とよく歌われるらしいが、なるほどまさに歌うような池川君のサックスは、音色もよくマッチしている。
チャーリー・パーカーのプログラムから、ソリストは江澤茜さん。パーカーのWith Stringsからも二曲演奏したが、江澤さんの希望もあり、あえてその二曲は外し、On Dialのクインテットの演奏で有名なAll the things you areとEmbraceable Youをチョイスした。
指揮・編曲の杉山正明さんの現代的アレンジにより、パーカーの面影を残しながらも、演奏され尽くされたスタンダードに斬新な息吹が吹き込まれる。All the things you areでは特にアルトとオケの4バースが聴きどころであり、江澤さんの物怖じしないリラックスした好演が光る。豊秀さんのピアノソロも短いながら言いたいことをよく伝えている。Embraceable Youはオケのメロディにアルトがオブリガードのように寄り添うスタイル。終盤のアルトによる長いカデンツァは白眉と言えよう。
後半のグッドマンのプログラムからはあえてデュオによるMemories of Youを選んだ。クラリネットの土井君をはじめ、ステージ上には恩師を同じくする同窓が数名座っていた。もちろん皆プロとして活躍している。その恩師である濱田伸明先生は10年前に鬼籍に入られたが、クラリネットの名手でもあり、Memories of Youは先生の十八番であった。私もステージで少しトークの時間をもらい、濱田先生への感謝の気持ちを述べさせていただいた。
Sing,Sing,Singは現代的かつ大胆なアレンジを効かせ、いわゆるブラバン的な色が抜けた耳新しい演奏となった。土井君のモダンなソロは特筆に値するが、高見さんのラッパも会場を大いに沸かせた。しかしフィナーレで転調してからのハイトーンによる小澤篤士さんのソロは、どよめきを呼ぶほどに印象付け、まさに「持ってった」って表現がふさわしい。おっと、長谷川清司さんのドラムも、特に女性からの「かっこいい」って声がとても多かった。
ラストはメインでもあるガーシュインのRhapsody in Blue。通常演奏より長めの26分にも及んだのは、ジャズ奏者ならではのインプロビゼーションとそのためのアレンジが用意されているから。時にピアノトリオが独立したジャージーな世界観を演出し、かと思えば土井君のクラリネットはもちろん、鈴木正則さんと三塚知貴さんもブルースのソロを披露するなど、所々でジャズの名手をフィーチャーした形となっている。
さらにクラシック、ジャズだけでなく、トラッドやロックンロール、現代音楽までをも広くカバーした、さながら音楽史大全の如しアレンジが唯一無二のRhapsodyへと昇華させている。
今回の演奏会は「阿部さんのピアノでRhapsodyを聴きたい」って思いつきが発端となっており、ちょうど一年前にオファーしてから、本当に当日を迎えられたこと、思い出すとちょっと涙が溢れたりする。
2018年1月、東京は中野の小さなライブハウスで、土井君と、その時に紹介してもらった阿部さんによる、ちょっとしたジャズ講座(私が講師で)がすべてのスタートであった。出会ってから5年で、このような大きな演奏会ができたこと、感慨深いにもほどがあるじゃないか。そうだね、また何かやらかそうと考えています。
【当日のパンフレット:一言でめちゃくちゃなジャズコンサート】
はじめまして、石田久二と申します。このたびは2023年最大のジャズイベント『Mackin-Qazz PGG Orchestra 2023 ~JAZZ Legendへ大胆に捧ぐ~』にご来場いただきありがとうございます!ここ、大阪はザ・シンフォニーホールはかのヘルベルト・フォン・カラヤンが愛してやまなかったクラシックの殿堂です。そのような格式高いホールでジャズイベントを開催し、お越しいただいたことに感謝申し上げます。
本コンサートの発端は、昨年10月の同じく大阪での800人イベントの直後、当QAZZレーベルからたくさんの吹込みを行なっているピアニストの阿部篤志さんで「Rhapsody in Blueを聴きたい!」って思い付きから始まりました。
しかしあれよあれと、いつの間にかこのようになってしまいました。Rhapsodyはクラリネットが良いので、グッドマンのナンバーも、どうせオーケストラ組むんだったらウィズ・ストリングスもやろう、みたいな展開となり、チャーリー・パーカー、ベニー・グッドマン、ジョージ・ガーシュイン、名付けて「PGG」へのトリビュート・コンサートへと膨らんでしまったのです。
思い立ってすぐにシンフォニーホールに電話で問い合わせ、予約。そこからオケも組むのですが、ストリングスや木管セクションは大阪のクラシック奏者から、サックスやトランペットなどジャズのホーンセクションは東京から。そんなハイブリッドな編成、しかも大御所揃いで、お互いメンバーを見て目が白黒状態。
主催の石田とMCの轟かおりさんは九州から。つまりこの日、この一夜のために全国から強者たちが集結したわけです!
1939年、貿易会社に勤めるドイツ人、アルフレッド・ライオンはニューヨークのカーネギーホールにて開催された「Spiritual to Swing」というコンサートに接したことをきっかけに、BLUE NOTEレーベルを立ち上げました。
今回のイベントのサブテーマも「Spiritual to Swing」ですが、カーネギーホールのそれが「黒人霊歌からスイングジャズ」という内容だったのに対し、今回は文字通り「精神世界からジャズ」なる思いを込めています。そもそも石田の本職が精神世界・自己啓発系の作家であるわけですし。しかし「Spiritual to Swing」の魂は同じくして、アルフレッドが一夜で人生が変わったように、今回のコンサートも来られた皆さん、一人ひとりの人生に大きく響くようなイベントにしたいと願いを込めています。
まずはオープニングアクトに代えて、冒頭は池川眞常さんのサックスと、オーケストラによる三曲。藤井風さんの「旅路」も演奏しますが、本日、QAZZレーベル発で池川さんの『旅立ち(QAZZ-011)』がお目見えとなりました。ピアノは井高寛朗さん。
さらに本イベントにおけるSpiritualからの橋渡しとして、この9月に『整え』(サンマーク出版、石田プロデュース)を上梓されましたエドワード淺井氏によるスピリチュアルパフォーマンス「情報空間の整えの術〜奇跡の光」が披露されます。冒頭より杉山正明さん(本イベントの指揮・編曲・総合監督)の『朝昼夜(QAZZ-009)』から幕を開けます。
さて、いよいよ第一部はチャーリー・パーカーへのトリビュートプログラム、ウィズ・ストリングスを中心に。アルトサックスは江澤茜さん。リズムセクションはこの夏、QAZZレーベルから『それから(QAZZ-010)』を出されましたピアノの豊秀彩華さんのカルテット!ベースは手島甫さん、ドラムスは山崎隼さんなる、若い4人がど真ん中から正当ビバップに挑みます。
一曲目はパーカー・ウィズ・ストリングスのオリジナル冒頭に聞かれる「Just Friends」ですが、杉山さんの名アレンジにより令和バージョンへと進化しました。弦のトレモロからのサックスの16分音符への飛躍。いつ聴いてもゾクゾクしますが、江澤さんはやってくれます!
二曲目は同じくオリジナルから「Everything Happens to me」ですが、パーカーのそれは弦楽合奏にオーボエの編成ですが、今回はさらにフルート、クラリネット、ファゴット、ホルン、そしてマリンバが加わった超豪華編成となります。
実は9月頭、東京は赤坂ビーフラットにて、前哨戦としてのウィズ・ストリングス・ライブを行い、その模様は江澤さんのYouTubeチャンネル、そしてファイナルとなった『JAZZ JAPAN(156)』にてレポートされております。なお、その前身である『Swing Journal』の時代から日本ジャズ界を牽引されてきた編集長の三森隆文さん、残念ながら今年7月にお亡くなりになりました。もう少し一緒に仕事をしたかったのですが、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
三曲目はオリジナルにはないのですが、パーカーがスタンダード化した「All the Things you are」をお届けします。もしあのままパーカーが生きていて、令和の今ならどうするかを念頭にアレンジをお願いしました。通常よりややアップテンポで、スリリングな展開。圧巻はサックスとオケによる4バース!あの高速のパーカーフレーズが江澤さんのアルトに襲い掛かる構図は聴きどころです!
四曲目は若きマイルス・デイヴィスを従え録音したオン・ダイアルから「Embraceable You」で、私はこのオリジナルの演奏が大好きなのです。デューク・ジョーダンのイントロから、パーカーの自由闊達なアドリブ、抑制の効いたマイルスのラッパ。すべてが完璧な3分間をオーケストラと共に再現、更新します!
ラスト五曲目はブルース!アレンジに際して私がリクエストしたのが、エリントン楽団にいたポール・ゴンザルベスさながらの長尺ソロでグイグイいって!って感じ。大盛り上がり間違いなし!江澤さんのアルトはジャズの伝統と王道に根を張った、ストレートな音色とフレージングが大変に魅力的で、文字通り「これぞジャズ」を体験できることでしょう。
さてさて、読んでいるだけでお腹いっぱいですみませんが、ここからが第二部、コンサートのメインに向かっていくのですが、最初はグッドマン・トリビュート。クラリネットは土井徳浩さん。土井さんは実は石田の中高の後輩であり、当時から非常にマニアックで変わった男でした。ジャズの名門、アメリカのバークリー音楽大学を優秀な成績で卒業し、今や名実共に日本を代表するジャズクラリネット奏者として活動されております。
一曲目はガーシュインから「The Man I Love」で、MCの轟かおりさんのボーカルが加わります。メロウなテーマが美しく、ガーシュインが生きていた時代の息吹を感じさせてくれることでしょう。そしてもう一人フランペット(トランペットとフリューゲルホーンの合算のような楽器でアート・ファーマーが使用していた)の高見浩之さんもフィーチャーされます。高見さんと土井さんは『VIBRATION(QAZZ-003)』のライブ録音で共演した間柄でもあります。
二曲目はグッドマン・ナンバーの「Avalon」は急速調に、「東の土井徳浩」に対し、関西を中心に活動されている「西の鈴木孝紀」がバトルで迎え撃ちます。一説によると、土井さんは「日本で最もエディ・ダニエルズに近い奏者」と言われているそうですが、鈴木さんもかなりそれに近く、クラシックからトラッド、さらにはモダン、コンテンポラリーまで幅広く演奏されます。轟さんもボーカル、スキャットで応戦します。
ここまで、ピアノは井高さんなのですが、三曲目からいよいよ阿部篤志さんが登場。阿部さんはQAZZレーベルですと001(ソロ)、003(バンド)、005(トリオ)、007(トリオ)、008(ソロ)にて吹き込まれ、年内に013(ソロ)も登場します。
QAZZレーベル、そして本イベントのきっかけとして、元はと言えば、2018年1月、石田が企画した「初心者のためのジャズ講座」にて土井さんが連れて来られたことに始まります。阿部さんはスイングからフリーまでなんでもござれ。15人も入ると満席となる東京のとあるジャズバーで、二人の演奏を驚きと感激をもって聴かせていただきました。そんな感慨深い一夜に思いを寄せて、同じくグッドマンの代表的ナンバーである「Memories of You」はデュオでお届けします。
ラストは有名な「Sing,Sing,Sing」で、ドラムソロはベテランの長谷川清司さん!第二部もすべてストリングスを伴う超豪華アレンジで、強者揃いのブラスセクションを中心にハチャメチャやってくれることでしょう!
そして今回のメインとも言えるガーシュイン・トリビュート、「Rhapsody in Blue」となります。あまりにも有名なコンチェルトですが、当のガーシュインは初演はアドリブだったそうです。しかしそのあまりの完成度から、いつしかそれがオリジナルとなり、多くのクラシックのピアニストもレパートリーとするようになりました。
しかしガーシュインのそもそもの意向を受け継ぐのであれば、ガーシュインと同様全編アドリブであるべきなのだろうけど、とは言えあの完成された様式美を逸脱しては、必ずしも正解には結びつかない。それでもなおジャズピアニストがあえて演奏するなら、様式美を崩さず、ガーシュインの思いを反映させる必要がある。となると、阿部篤志こそがまさに適任!!
阿部篤志さんについて簡単に紹介すると、出身は岡山県倉敷市で、最終学歴はなんと島根大学法学部。法曹を目指していたのが、ビル・エヴァンズを聴いて、こんなことしてられないと在学中からプロへ。大学卒業後もむちゃな現場仕事にも常に期待以上に応え、東儀秀樹さん、葉加瀬太郎さん、MayJさん、最近では小野リサさんなど多くの著名人と共演を重ねます。昨年はアカデミー賞映画・村上春樹原作『ドライブ・マイ・カー』で作中音楽を手掛けるなど、常にファーストコールがかかる充実した演奏活動を繰り広げており、ようはプロモーションの必要がないほどに多忙で、だからこそ隠れた名手のような存在に・・・。
そんな阿部さんの「Rhapsody in Blue」をぜひぜひ聴いてほしいと思いますが、そもそも私が一番聴きたいわけで、杉山さんのアレンジも含め、どのような演奏になるのか実に楽しみです!
そう言えば今から6年ほど前、2017年の秋に杉山さんとたまたま香港でお会いする機会があり、バーで飲みながらいろんな話をしたのをいつも思い出します。一緒に何か、音楽やりましょう。その言葉はすぐに現実となり、大小規模の音楽イベントを企画し、QAZZレーベルも作品を次々と量産するようになり、ジャズジャーナリズムからも注目されるようになりました。
2020年にはジャズ専門会社(まるいひと株式会社)を設立し、手探りの行き当たりばったりで前進しつつあるのですが、当初から大切にしている哲学があります。それは、「めちゃくちゃやる」ってこと。もちろんいい加減な気持ちでやるわけじゃありません。「美味しんぼ」という漫画が昔から大好きなのですが、その中で「鍋対決」なる話があります。全国各地、そして各家庭には多種多様な「自慢の鍋」が存在し、おそらくそれぞれが「うちが一番」と誇りに思っていることでしょう。
しかしそこに「ふぐ」「かに」「すっぽん」など王様レベルの高級食材が立ちはだかったらどうでしょう。ああ、食べてみたいと憧れこそすれ、「うち」をそこにぶつける気など起こらない。だだしもちろん、一つのテーブルに「ふぐ」「かに」「すっぽん」を並べるのはめちゃくちゃです。
パーカー、グッドマン、ガーシュインも音楽の世界では、それら高級食材に匹敵する「めちゃくちゃ」な王様ですが、本日は50名もの腕のいい料理人がめちゃくちゃな食材に挑みます。皆さまは、ただ、それらをご賞味するだけ。
今いる場所は、そんなところ、なのです!
しかし私たちもこれで終わりではありません。めちゃくちゃやったら、次はもっとめちゃくちゃやる。でも今日のところは、今日の「めちゃくちゃ」を心ゆくまでお楽しみください。
石田久二
1.翼(武満徹)
2.All the things you are(Jerome Kern)
3.Embraceable You(George Gershwin)
4.Memories of You(Eubie Blake)
5.Sing, Sing, Sing(Louis Prima)
6.Rhapsody in Blue(George Gershwin)
Piano:阿部篤志
Clarinet:土井徳浩
Alto Sax:江澤茜
指揮・編曲:杉山正明
演奏:Mackin-Qazz PGG Orchestra
企画:石田久二
監督:杉山正明
録音:河本徹
編集:芹澤薫樹
写真:大西保孝
装丁:菅原沙耶
Live and Recorded at The Symphony Hall
2023年10月23日