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石川雄一『A PLACE ABOVE THE CLOUDS』(QAZZ-024)

3,080円

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QAZZレーベル創設当初からお世話になっている阿部篤志さんが福岡でライブを行う際、ベーシストの松下一弘さんの紹介でお会いしたのが最初の出会いだった。もっとも、博多や北九州のジャズシーンで石川雄一さんの名前を目にする機会は、それ以前から少なくなかった。 初めて石川さんのギターを聴いた印象は「なんて優しい音を奏でるのだろう」というものだった。イディオムを並べるだけの機械的なソロに陥ることなく、アドリブにおいても常にメロディと歌心を感じさせる。2023年の年明けのことだったが、その場で早くもアルバムの話を持ちかけていた。 その夏、20年来共演を重ねてきた轟かおりさんのアルバム『STAR is BLUE』(QAZZ-019)に参加いただき、翌年に改めて石川さんのリーダーアルバムの収録が実現した。QAZZレーベルの作品はプロデューサーである石田の主導で企画されることが多いが、今回はほぼ石川さんに一任。 私がリクエストしたのはスタンダードの「But Not For Me」「Here's That Rainy Day」、そしてJ-POPから宇多田ヒカルの「First Love」のみである。それ以外は石川さんのオリジナル、ブラジル音楽の「Frevo」、ニーナ・シモンで知られる「Feeling Good」を加えた全10曲で構成される。オリジナルが半数を占めるが、どの曲も石川さんらしいメロディアスで耳に残る、愛らしいラインナップとなった。 石川さんに改めて話を伺った。お父様はコントラバス奏者、お母様はピアノ教師という音楽的な環境に育ったが、幼少期に少しピアノを習った程度で、本格的に音楽に目覚めたのは中学の音楽の授業でギターを触ったときだという。当時はTHE ALFEEなどのJ-POPを好み、そのころからすでにミュージシャンを志していた。 高校卒業後は地元の音楽専門学校に進み、マイルス・デイヴィスのアルバム『Miles Smiles』、特にウェイン・ショーター作曲の「Footprints」に衝撃を受けてジャズに傾倒していった。専門学校卒業後はロサンゼルスに留学し、研鑽を積む。帰国後すぐに音楽一本で活動したわけではなく、母親の勧めもあり、介護施設で働きながら音楽を続ける生活が30歳手前まで続いた。 しかし、その施設での経験が現在の石川さんの音楽観に深く影響している。施設長が音楽療法に関心を持っており、認知症の予防・抑制のため積極的に導入していた。石川さんも専門ではないながら、音楽家の立場から協力したという。 その際に重視していたのが、まさに「メロディ」だった。環境の変化が認知症を進行させる一因とされるなか、予防や抑制には「過去の記憶」を刺激することが大切と考えられている。そこで昔の曲を演奏したり、心の琴線に触れるメロディを聴かせたり、時にはハーモニカを手に取ってもらうことで、明確な効果が見られたそうだ。 この経験を通じて石川さんの中には、自分のやりたい音楽を追求する以上に、人に音楽を届けるという姿勢が根づいた。オリジナル曲にも難解さはなく、スタンダードのように心に響く旋律が並んでいることからも、その信条が伝わる。 詳しい曲解説は石川さんご本人にお任せするとして、私なりの印象を述べる。ギターという楽器は主にアコースティックとエレキに二分されるが、今回も全曲にわたりフル活用した。やりたいことをすべて盛り込んでほしいとの思いどおり、バラエティに富んだ一枚になった。 オリジナルでは、ロック調の「Blind Child」に始まり、「Cerastium」はアコギを用いた牧歌的なバラードで、フレットレスのベースソロが印象的だ。表題曲「A Place Above The Clouds」は7拍子の複雑なリズムに、エレクトリックピアノも用いたややアグレッシブな内容となっている。 「猫空曇り空」は、あたかもビル・エヴァンス&ジム・ホールのデュオを彷彿とさせる、心の通った対話が展開される。「The Summer」では、録音日が真夏の日だったことも手伝い、野外フェスで紙コップの生ビール片手に身体を揺らしたくなる雰囲気。ピアノの阿部さんはプレイバックを聴きながら踊っていた。 轟さんが参加した3曲もよく知られた楽曲ながら、耳新しいアレンジが楽しい。聴き慣れた「But Not For Me」なども、洋楽のような斬新な世界を歌い上げる。「Here's That Rainy Day」は、二人にとってなじみ深いギターとのデュオだが、これまで歌ったことはなかったらしく、当人たちにとっても新鮮だったろう。「Feeling Good」は轟さんのノリの良いレパートリーだが、エフェクトを効かせたギターとソウルフルなハモンドオルガンが、これでもかとばかりに盛り上げる。 轟さんとは同じ福岡で共演する機会も多いが、ベースの関谷さんは旧友ではあるものの、仕事で音を合わせる機会は意外となかったし、ドラムの松浦さんに至っては初対面だった。今回の録音に際し、石川さんからの強い要望は「とにかく阿部さんと作品を作りたい」ということ。2年前の初顔合わせ以来の願いが、ここに結実した。また、エンジニアの吉川さんには、本来の枠を超えて、楽曲や演奏にまで細かな指示をいただき、一段とグレードアップした作品になったと思う。 それでは以下、石川さんによる楽曲紹介をどうぞ。 1.Blind Child (Yuichi Ishikawa) ジャン・コクトー作の『恐るべき子供たち Les Enfants Terribles』よりインスパイアされて書いた曲。もともとはSwing Feelの曲だったのですが、エンジニアの吉川さんのアドバイスもあり、ドラムの松浦千昇君のカラーを前面に出したくて急遽アレンジを変更。アーシーでダーク、内に秘めたエネルギーが終盤に向けて膨れ上がる感じが、曲のイメージどおりになりました。 2.But Not For Me (Ira Gershwin / George Gershwin) ジャズ・スタンダードの名曲。歌詞は失恋してどん底にいる主人公の気持ちを歌ったもの。ベース関谷友貴君、ドラムの千昇君を迎えるにあたり、二人の演奏をイメージしてアレンジを施しました。轟かおりさんのボーカルも相まって、明るくなりすぎない世界観になっています。 3.Cerastium (Yuichi Ishikawa) 和名は「みみなぐさ」という白く可憐な花をイメージした曲。アコースティックな響きを軸に、日本の原風景を思い浮かべるような仕上がりを目指しました。フレットレス・ベースの歌心あふれるソロも秀逸。曲全体を優しいタッチのピアノがそっと包み込んでくれています。 4.A Place Above The Clouds (Yuichi Ishikawa) ジャケットになっている新進気鋭の画家Paco-Anne作の油絵のタイトルと同名の曲。Paco-Anneから5年以上ぶりに連絡があり、たわいもないやりとりをしていたところ、彼の作品の話になりました。まだ見ぬ雲の上にある場所という作品と、もともとNew Gateという仮タイトルで、今回のレコーディングで新しい世界を見たいと思って作ったこの曲のコンセプトがリンクし、アルバムのタイトルにもぴったり収まりました。阿部篤志さんはピアノに加えウーリッツァーも演奏し、独特の雰囲気を創り出してもらいました。7拍子での千昇君のドラムも素晴らしい。 5.Here’s That Rainy Day (Johnny Burke / Jimmy Van Heusen) 1953年にブロードウェイ・ミュージカル『Carnival in Flanders』のために書かれた曲。ミュージカルはわずか6日間しか上映されなかったようです。轟かおりさんとは20年以上デュオで演奏していますが、毎回新しい発見があり、お互いに刺激を受けながら活動を行っています。この曲は思いがけない出来事について歌っており、それは悲しいこととも嬉しいこととも解釈できる内容ですが、轟さんは幸せなことが起きたというニュアンスを含み、優しく歌い上げてもらいました。 6.Frevo (Egberto Gismonti) ブラジルの鬼才、エグベルト・ジスモンチ作。ブラジルの無形文化遺産でもある「Frevo」。軍楽隊の行進曲から発生したといわれるこの音楽は明るく活気があるものですが、ジスモンチのどこか哀愁を帯びたメロディが美しい。ブラジル音楽にも精通している阿部さんのグルーヴあふれる演奏に、メンバー全員、新しい世界を見ることができました。 7.猫空曇り空 ~Maokong Yinttian~ (Yuichi Ishikawa) 台湾にある猫空という標高500メートルほどの山。山頂へはロープウェイで登るのですが、その日は生憎の曇り空。ロープウェイの窓に時々滴る雨と、その向こうに見える台北の街並み、猫空に広がる茶畑の風景を思い出しながら書いた曲です。ギターとピアノの会話を楽しむような演奏。阿部さんとのデュオはとても幸せな時間です。 8.Feeling Good (Anthony Newley and Leslie Bricusse) ニーナ・シモンの歌唱で有名な曲。「新しい夜明け、新しい日、自分にとって新しい人生、なんていい気分」という歌詞が、このアルバムに一貫して流れる新しい世界へのワクワク感を表しています。ブルースあふれる歌とギターに、B3オルガンとパワフルなベース、ドラムが絡むエネルギッシュな作品となりました。 9.The Summer ~It Built Bridges Between You and Me~ (Yuichi Ishikawa) レコーディングした時期は、とても長く暑い夏の真っただ中。しかし、この夏にメンバーと出会い、最高の作品を作ることができました。この曲はレコーディング時の最後に収録し、一日中、とても濃密で音楽にあふれた時間を共有して作品を作り上げた嬉しさでいっぱいの仕上がりになりました。 またこのメンバーで集まれる日を夢見て。 10.First Love -Bonus Track- (Hikaru Utada) 今回、プロジェクトマネージャーの石田久二さんからリクエストのあった曲の一つ。とても有名なこの曲をどうアレンジするか悩みました。原曲の良さを消すことは自分のアレンジ手法ではないので、大きなコードやリズムの変更はなし。イントロを新しく加え、失った恋を糧に前に進んでいく主人公の気持ちを表現できる世界観を作ろうと思いました。 当日は1曲目に録音しましたが、なにせメンバーが集まったのは初めて。互いに探り合いながらデモトラックをもとに少しずつアレンジを変更。仕上がってみたものの、ドラマーでもあるエンジニアの吉川さんから「なんかしっくりこない」とのことでいったん保留。トラックダウンを終えてもモヤモヤがとれなかったため、いろいろ試したうえでギターを再度オーバーダビング。12弦ギターも出動させ、楽曲終盤はギター祭りのような体に。そのおかげで、とても素敵な作品となりました。 2000年にロサンゼルスで出会ったベースの関谷友貴君と、四半世紀後の2025年の夏にこの作品が作れたことは、とても感慨深いものでした。当時はたくさんセッションをして、いろんなライブを聴きに行き、同じ釜の飯を食べて切磋琢磨した大事な仲間が、素晴らしいベーシストになっていることが嬉しくて。レコーディング前の準備段階からたくさん相談にのってもらい、感謝しています。 ピアノの阿部さんとは出会って3年ほどですが、「早く作品創りましょうよ」とお会いするたびに声をかけていただき、やっと実現できました。常に冷静に音楽に向き合いながら、高いテンションで現場を盛り上げてくださり、演奏では皆を新しいステージに引き上げてくださいました。 ラムの松浦千昇君は関谷君からの紹介で初対面でしたが、演奏もさることながら、その場で新しいリズムパターンをあっという間に吸収したり、こちらの要望にも期待以上のものを出してもらえたりと、音楽性の高さにワクワクが止まりませんでした。 轟かおりさんとは年間50本近く一緒に演奏しています。今回のレコーディングについても、たくさん相談にのっていただいたり、ボーカル曲のイメージを共有したりと、とても頼りになりました。どんな演奏の時もこの人がいれば安心。改めて存在の大きさを感じました。 今回のレコーディングの機会を与えてくださり、自分のわがままし放題の作品創りを支えてくださった石田久二さん、その石田さんと阿部さんを紹介いただいたベースの松下一弘さん、そしてレコーディング時にはたくさんのサジェスチョンを、ミックス時にはこちらの要望を快く聞き入れていろいろ試し、最高のサウンドに仕上げていただいたエンジニアの吉川昭仁さん。本当にありがとうございました。 この作品を手に取っていただいた皆様に、末永く愛聴していただけますように。 2025年10月21日 石川雄一 1.Blind Child (Yuichi Ishikawa) 2.But Not For Me (Ira Gershwin / George Gershwin) 3.Cerastium (Yuichi Ishikawa) 4.A Place Above The Clouds (Yuichi Ishikawa) 5.Here’s That Rainy Day (Johnny Burke / Jimmy Van Heusen) 6.Frevo (Egberto Gismonti) 7.猫空曇り空 ~Maokong Yinttian~ (Yuichi Ishikawa) 8.Feeling Good (Anthony Newley and Leslie Bricusse) 9.The Summer ~It Built Bridges Between You and Me~ (Yuichi Ishikawa) 10.First Love (Hikaru Utada) -Bonus Track- 石川雄一 (Yuichi Ishikawa) /Electric Guitar, Acoustic Guitar and 12 Strings Guitar 阿部篤志 (Atsushi Abe) /Piano, Wurlitzer and Hammond B3 Organ Except Track 5 関谷友貴 (Tomotaka Sekiya)/Electric Bass, Fretless Bass and Contrabass Except Track 5,7 松浦千昇 (Yukino Matsuura)/Drums Except Track 5,7 轟かおり (Kaori Todoroki) / Vocal on Track 2, 5, 8 Project Manager:石田久二 (Hisatsugu Ishida) Co-Arrangement : 吉川昭仁 (Akihito Yoshikawa) ecorded on August 13,2025 at STUDIO Dedé by Akihito Yoshikawa. Mix and CD Master by Akihito Yoshikawa Cover Artwork by Paco-Anne Graphic Concept by Saya Sugawara

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