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QAZZレーベルの「Plays the Great Japanese Songbook」シリーズは、すでに2作品をリリースしている。第1弾は井高寛朗さん(017)、第2弾は豊秀彩華さん(021)と、どちらもピアノソロでの録音だ。
偶然だったのだが、1作目のジャケットが鮮やかな緑、2作目が優しい桜色となり、結果的に夏と春を連想させる仕上がりに。それなら3作目は「秋」でいこうと、急遽秋のレコーディングが決まった。
前2作は季節を強く意識した選曲ではなかったが、今回は少し趣向を変えてみた。「秋桜」「木枯らし」「もみじ」といった直接的な秋の楽曲に加え、どこか秋を感じさせる、切なさを帯びた名曲を選んでいる。
アルバムの主役はピアニストの工藤舜也さん。QAZZではこれまでも2作品にピアノとアレンジで参加しており、本作も全曲を工藤さんのピアノとアレンジで構成した。さらに今回は、ビブラフォンのHitomiさん、ヴァイオリンの淵野日奈子さん、そして前作に続き豊秀彩華さんのキーボードを迎え、デュオとトリオの編成で録音している。
今回の人選について、工藤さんは昭和音楽大学の後輩である淵野さんと豊秀さんに声をかけた。一方、Hitomiさんは石田の知人で、演奏者たちとは初対面だった。しかし、これこそがジャズの醍醐味だろう。ジャズという共通言語を持ちながら、それぞれの個性をぶつけ合うことで名演が生まれる。
実際、工藤さんとHitomiさんの音楽的相性も良く、上質なアルバムに仕上がった。レコーディング中に知ったのだが、Hitomiさんは昭和音楽大学で打楽器を学び、卒業後にジャズに傾倒。惜しくも昨年亡くなられた赤松敏弘さんに弟子入りし、研鑽を積んだという。
ビブラフォンには、ミルト・ジャクソンのように両手にマレット(撥)を一本ずつ持つスタイルと、ゲイリー・バートンのように二本ずつ、計四本で演奏するスタイルがある。Hitomiさんは後者の奏法だ。
それでは曲を聴きながら楽曲について説明していこう。なお、選曲は1〜5曲目が石田、それ以外は工藤さんによるものだ。
1. 秋桜
「秋」をテーマにして真っ先に思い浮かんだのがこの曲。作詞作曲、そして歌もさだまさしによるものだが、この曲を代表する歌手といえばやはり山口百恵だろう。今回も歌手のクレジットについては、その楽曲を最も象徴するアーティストを記すことにした。
今回は3曲に淵野さんのヴァイオリンが参加している。さだまさしもヴァイオリンの名手であり、コンサートでもしばしば演奏されるそうだ。昭和歌謡らしい前奏から、ヴァイオリンによる素直なメロディが始まる。
それがアドリブパートに入ると一転、スリリングなジャズピアノが展開される。そして終盤は再びヴァイオリンにより静かに締めくくられる。凝ったアレンジを施さなかった分、アドリブパートでのストレートアヘッドなビバップとの対比が、楽曲の美しさと奥行きを際立たせている。
■歌 山口百恵 / 作曲 さだまさし / 作詞 さだまさし 1977年
2. 蒼いフォトグラフ
周知のように作曲の呉田軽穂とは松任谷由実のこと。ユーミンは松田聖子にいくつか楽曲を提供しており、「赤いスイートピー」「Rock'n Rouge」「瞳はダイヤモンド」などは圧倒的な代表作と言える。
今回チョイスした「蒼いフォトグラフ」は、「瞳はダイヤモンド」のB面としてカップリングされた隠れた名曲だ。今もなお愛聴者は少なくない。実はドラマの主題歌として取り上げられた経緯があり、石黒賢や二谷友里恵など名優を揃えたものの、大ヒットには及ばなかったそうだ。ただ、その原作小説は多くの青春をかきむしった話題作、宮本輝の「青が散る」である。私もドラマこそ見ていないが、学生時代に読んで大いに悩まされた。かくも青春は儚い。その辺がどこか秋を感じさせるため、選曲することにした。
ビブラフォンのHitomiさんに参加いただいたが、ビロードのような音色がこの切ない曲調に実にマッチしている。大昔に読み、内容こそ朧げとなった小説の世界観を浮き彫りにしているようで、再び胸がかきむしられた。
■歌 松田聖子 / 作曲 呉田軽穂 / 作詞 松本隆 1983年
3. 木枯らしに抱かれて
私が選曲した5曲にはある共通点がある。それはその歌手もさることながら、作曲者も歌手であり、圧倒的な著名人であること。1曲目はさだまさし、2曲目は松任谷由実、そして3曲目のこちらは、なんとTHE ALFEEの高見沢俊彦である。
高見沢本人が歌うのを聴いたことはないが、私の記憶の限りで言うなら、この曲は出てきた当初はさほど目立った印象がなかったように思う。しかしテレビの歌番組などでは、ずいぶんと長く残っているようで、アイドルの曲としては異例のロングヒットとなった。
この曲が流行った時、私は中学生だったが、クラスでやたら女子が歌っていたのを覚えている。豊秀さんのキーボードが参加しているが、鍵盤同士のデュオはオーソドックスなジャズではあまり聴くことがないものの、ビブラートを十分に効かせたキーボードは、ソロでも伴奏でも、なかなかよい持ち味を出している。
■歌 小泉今日子 / 作曲 高見沢俊彦 / 作詞 高見沢俊彦 1986年4. 悲しみよこんにちは
QAZZのライナーノーツは基本、石田の個人的なエッセイ色が強いものとなるが、この曲のことはよく覚えている。私が初めてJ-POPに興味を持つようになったきっかけの曲は、安全地帯の「悲しみにさよなら」である。母親もそれが好きで、この歌を聴きなさいと真剣に言われたのだった。
私自身の音楽体験の中でも、小さな足跡を残す曲であったが、まもなくその衝撃を上回る体験をしたのが「悲しみよこんにちは」だった。しかしさらなる衝撃をもたらしたのが、どちらも安全地帯の玉置浩二の曲であると知ったこと。アンサーソングでは必ずしもないようだが、私の心の中ではしっかり結びついている。
Hitomiさんとのデュオに戻る。テーマの頭はビブラフォンが担当するが、サビ以降はピアノに移動。その間、ビブラフォンはベースラインを弾いており、アドリブに入ってからも、ベースからハーモニーまでしっかりと支える。
そしていざ自分自身のソロに入ると、ピアノのウォーキングに乗りながら音数を増やし、後半にかけて盛り上がり、最後のサビからテーマに戻る。その時、原曲にあるアカペラシーンをオシャレに再現した工藤さんのアレンジ力に唸ってしまった。
テーマ後のアウトロでは両者がバース交換をしつつ収束を迎えるのだが、J-POPのジャズ化の見本のような見事な演奏で、個人的には本アルバム中の白眉と言いたい。
■歌 斉藤由貴 / 作曲 玉置浩二 / 作詞 森雪之丞
1986年5. MajiでKoiする5秒前
豊秀さんによる第二弾のライナーノーツにこのようなことを書いていた。
「色・ホワイトブレンド」は中山美穂の代表曲のひとつとして知られているが、作詞・作曲は竹内まりや。実は竹内まりやって、「いい曲だな」と思って調べると、だいたい彼女だったりする(たとえば広末涼子の「MajiでKoiする5秒前」とか、次やろう)。そんなふうに、彼女の楽曲は時代を超えて人の心に残る。
有言実行のため最初に選曲した曲である。QAZZでは同じく豊秀さんの『それから』の中の「駅」、そして先の「色・ホワイトブレンド」に続き、狙っていたわけではないが、竹内まりやは三曲目となった。
またも個人的な話で恐縮だが、この曲を歌う広末涼子をテレビで初めて見た時、やはり衝撃を受けた。今となってはスキャンダラスに報道されることの多い広末だが、私的には「何をやっても許されていい存在」に置きたいのが正直なところ。
典型的美人とは言えないながらも透明感のあるルックス、二次元から飛び出してきたような非現実的な存在感、そしてこの歌詞にメロディがどこまでマッチするのだろう。昨今は妙に人間臭いアイドルがもてはやされているようだが、その意味で、広末涼子は神界から降臨した最後のアイドルであり、不可侵な存在でいいのではないか。
思わず熱くなってしまったが、こちらを工藤さん、Hitomiさんの二人が、原曲の魅力を引き立てるような素直なジャズに昇華した。アップテンポでビブラフォンがメロディを伸びやかに歌い上げる。アドリブパートも、モードや循環で代用することなく、ツーファイブのコードを展開しながら、いわゆる『どジャズ』に収める私好みの、胸がすくような快演となった。
■歌 広末涼子 / 作曲 竹内まりや / 作詞 竹内まりや 1997年
6. LOVEマシーン
工藤さんの選曲だが、「作曲者も歌手であり、圧倒的な著名人」という点を受け継いでいる。豊秀さんのキーボードとのデュオで、ファンキーなジャズへと仕立て上げた。
1999年と言えば、私はまだモラトリアムとしての大学院生活を謳歌していたが、実は修了後の進路など不安をいっぱいに抱えている最中でもあった。世間的にもバブル崩壊以降、平成不況の泥沼から抜け出せない、どちらかと言うと暗い世相だった。
世の中が暗いと明るい曲が流行るという文脈で、よく例に出されるのが、戦後すぐに大ヒットした「リンゴの唄」であろう。そして日本はまもなく奇跡の復活、高度経済成長へと突入する。では今はどうか。
あの当時は「LOVEマシーン」で同じように日本復活となるかと思いきや、どちらかと言うと「失われた10年」が20年、30年と更新されただけなのも否めない。ただ、ITがやってきた。私個人は世間も自分の人生も暗い中でありながら、ITが世の中を変える期待の方が大きく、実際そうなった。そして私もIT(例えばブログ)によって人生は見事に復活した。
「LOVEマシーン」を聴くと、そんな歴史が思い出される。そして2026年現在、AIがIT以上のインパクトを持って世界をかき乱している。これからさらに何かが起こりそうな予感を抱きつつ、今これを書いている。
■歌 モーニング娘。 / 作曲 つんく / 作詞 つんく 1999年
7. また あした
工藤さんの選曲、淵野さんのヴァイオリンとのデュオで。ここからようやく2000年代の曲に入るが、工藤さんは私より20年ほど若い世代なので、無理やり昭和から平成初期に付き合わせてしまったかもしれない。
しかしEvery Little Thingの持田香織(もっちー)と言えば、どちらかと言うと私世代のアイコンであり、2000年代初頭に圧倒的に流行った人物でありグループだ。ただし、Every Little Thingの曲の中ではちょっと控えめなナンバーで、必ずしも代表する曲ではない分、好きな人は好き。
ヴァイオリンは基本的にメロディを担当し、ピアノは間奏的に色を添える。工藤さんの今回のアレンジの趣旨は、やりすぎない、それでいて陳腐にならず、ジャズとしての聴き応えをアピールしていく。その辺のギリギリなラインを感じ取ってもらえたらと思う。
■歌 Every Little Thing / 作曲 小幡英之 / 作詞 持田香織 2005年
8. プラネタリウム
工藤さんがこの曲を選んだ理由は、とにかく好きだから。大塚愛のファンクラブに入ってるほどなので、好きも筋金入りだ。「プラネタリウム」は代表作の一つであり、選ぶならこれという感じなんだろう。大ヒットドラマ「花より男子」のイメージソングとしても知られ、この曲を聴くと、ドラマのワンシーンを思い出す人も少なくないだろう。
工藤さんいわく、大塚愛は単なるアイドルではなく、実は音大を出ていて、とにかくピアノが上手いし、作曲のセンスも目を見張るものがある。一聴すると、単にキャッチーで大衆迎合な雰囲気もないわけではないが、いざピアノで弾いてみると、すごく考えられていることがわかる。
再びビブラフォンとのデュオで、これまでの曲と同様、まずはメロディを素直に奏でる。アドリブパートも原曲から逸脱せずに、普段ジャズに馴染まない人が聴いても、「なんか、いいな」と思えるような演奏を心がけたとのこと。
今回のアルバムで初めて出会いながらも、実は音大の先輩であったというHitomiさんとの音楽的相性もバッチリで、レコーディング時もそれぞれ譲らない姿勢で真摯に、かつ楽しく挑むことができたようだ。
■歌 大塚愛 / 作曲 愛 / 作詞 愛 2007年
9. もみじ
基本的にリリースした年代順に並べてきたが、1911年と明治時代の曲をボーナストラック的に最後に持ってきた。日本人なら誰もが歌ったことのある、大スタンダード。
唯一のトリオ。ピアノ、ビブラフォン、ヴァイオリンがそのまま、ほんの少しハーモニーをジャズ化する程度にメロディを受け継いでいく。
100年以上も前の曲であり、それこそ祖父母以上の世代から歌われているだけに、聴いているとどこか「日本人のDNA」なるものが呼び覚まされるような気もする。ジャズのイディオムを用い、新鮮な響きがある中でも、しっかりと「郷愁」なるものを伝えてくれる、素晴らしいアレンジと演奏であった。
■作曲 岡野貞一 / 作詞 高野辰之 1911年
1.秋桜(山口百恵)
2.蒼いフォトグラフ(松田聖子)
3.木枯らしに抱かれて(小泉今日子)
4.悲しみよこんにちは(斉藤由貴)
5.MajiでKoiする5秒前(広末涼子)
6.LOVEマシーン(モーニング娘。)
7.また あした(Every Little Thing)
8.プラネタリウム(大塚愛)
9.もみじ
工藤 舜也/Piano,Arrangement
Hitomi/Vibraphone(2,4,5,8,9)
淵野 日奈子/Violin(1,7,9)
豊秀 彩華/Keyboard(3,6)
石田久二 / 企画
録音:飯島 絵莉子
編集:芹澤 薫樹
Recorded at 中藤スタジオ/2025.10.28
装丁:菅原沙耶